日米学会共同声明、並びにゲノム編集とは?
日米学会共同声明:ASGCT and JSGT Joint Position Statement on Human Genomic Editing
日米学会共同声明 (原文) Mol.therapy vol.23 no.8
2015年8月8日
Theodore Friedmann1, Erica C Jonlin2, Nancy MP King3, Bruce E Torbett4, Nelson A Wivel5, Yasufumi Kaneda6 and Michel Sadelain7 doi:10.1038/mt.2015.118
The American Society for Gene and Cell Therapy (ASGCT) and the Japan Society of Gene Therapy (JSGT) (collectively,“Our Societies”) recognize the great scientific advancement represented by the techniques of genome editing and their vast potential value for an improved understanding and possible treatment of human disease.【全文は下記PDFをご覧下さい。】
日米学会共同声明(日本語訳)
2015年8月17日
作成:金田安史(JSGCT理事長)、協力:加藤和人(大阪大学医学系研究科 医の倫理と公共政策学教授、総合科学技術・イノベーション会議 生命倫理専門調査会 専門委員)「人のゲノム編集についての日米の遺伝子細胞治療学会からの共同声明の概要」 今回、日米の遺伝子細胞治療学会は、人のゲノム編集についての共同声明を発表しました。このゲノム編集技術は、将来、疾病治療や病態解明に極めて有用ではありますが、使いようによっては重大な倫理上の問題を巻き起こす場合もありえます。
【全文は下記PDFをご覧下さい。】
ゲノム編集とは?
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1. 用語の説明
ゲノム編集(genome editing):文章の編集をするかのように、ゲノム上の特定のDNA配列(G, A, T, C)を任意に改変する技術。
遺伝子修復治療(gene repair therapy) :ゲノム編集技術を利用し、病因遺伝子上の変異DNA配列を正確に正常配列に修復する治療方法。従来の遺伝子を補充する遺伝子治療法に比べて効率は低いが、安全で正確な遺伝子発現が得られる。
相同組換え(homologous recombination; HR, homology-directed repair; HDR):DNA修復の一種で、DNA変異を、相同な配列を持つ鋳型DNAとの間で組み換えることによって修復するメカニズム。
非相同末端結合(non-homologous end-joining; NHEJ):DNA修復の一種で、染色体切断が生じた際に、その末端をつなぎ合わせることによって修復するメカニズム。相同組換えに比べると、エラーが起こる確率が高い。
人工制限酵素(artificial nucleases):任意のDNA配列を認識して二本鎖切断を導入する酵素。DNA結合タンパク質としてDNAに結合するzinc-finger-nuclease (ZFN)、transcription activator-like effector nuclease (TALEN)や、標的配列に相補的なRNAがDNAを認識する、clustered regularly interspaced short palindromic repeat (CIRSPR)-Cas9などの方法がある。
2. ゲノム編集技術とは
従来の遺伝子治療などで用いられる手段で、ゲノム上に遺伝子を導入して発現させるいわゆる遺伝子改変と異なり、ゲノム編集は、ゲノムDNA上の任意の配列に対して正確に欠失、挿入、置換を導入する技術である。
旧来は、細胞外から標的DNA配列と同じ(相同な)配列を持つ鋳型DNAを導入し、相同組換えを利用して標的染色体上に特定の配列を導入する手法が一般的であった。この方法を、例えばマウスES細胞で用いることによって、多様な遺伝子ノックアウトマウスが作製された。それに対して近年、ZFN、TALEN、CIRSPR-Cas9などの、任意のDNA配列(20~30塩基対)を認識して切断する制限酵素を自由にデザインする技術が急速に進歩している。これらの人工制限酵素を利用してゲノム編集を行いたい染色体配列を切断することによって、NHEJによる遺伝子ノックアウトやHRによる遺伝子ノックイン、遺伝子修復の効率が格段に上昇した。その結果、これまで応用が不可能だった生物種での遺伝子ノックアウト生物などの作製が可能になり、さらに、人の遺伝子治療への応用も期待されている。
遺伝子治療にゲノム編集を応用する事により、がん遺伝子の活性化などの恐れがない安全な遺伝子導入、本来の遺伝子座と同様の正確に制御された遺伝子発現、変異を直接修復する必要のある優性遺伝病の治療、などが可能となる。一方、現在の技術では、人工制限酵素のDNA配列認識が若干不正確な場合があるために標的配列以外の類似配列に変異を入れてしまう、いわゆるoff-target効果が、特に治療への応用を考えた場合に問題視されている。
ヒト受精卵を用いたゲノム編集実験を報告した論文の概要
Liang P, et.al., “CRISPR/Cas9-mediated gene editing in human tripronuclear zygotes.” Protein Cell. 6: 363-72, 2015.
- βグロビン遺伝子の異常によって発症するβサラセミアの遺伝子修復治療の技術を確立することを目的として、ヒト3前核受精卵(精子2つと卵子1つが受精した異常胚、以下3PNと記す)を用いて、βグロビン遺伝子座でのCRISPR-Cas9によるDNA配列の置換効率を検討した。
- 89個の3PN受精卵についてCas9, βグロビン遺伝子を標的としたgRNA、DNA置換の鋳型となるオリゴDNAをマイクロインジェクションで注入したところ、71個(83%)が培養48時間後まで生存した。
- そのうち54個について DNA解析を行い、23個でゲノム編集(遺伝子欠損などを含む)が起こっていたが、導入した鋳型DNAを利用した正確なDNA置換が得られたのは4個(4/54 = 7%)であった。これら4個の胚はすべて、モザイクであった。(ゲノム編集された細胞とされない細胞の集まりで、2細胞期以降にゲノム編集が起きたためと考えられる)
- 一方、それより多い7個において、導入した鋳型DNAではなく、βグロビン遺伝子座の近傍に存在する類似遺伝子であるδグロビン遺伝子座の配列を鋳型として置換が行われていた。
- 23個のうち残りについてはNHEJによりβグロビン遺伝子座がノックアウトされていた。
- ゲノム編集が起きていた胚において、予想される類似DNA配列(最高で20塩基の標的配列中の5塩基がミスマッチ)7箇所中の2箇所で高頻度(胚の30~40%)にoff-target効果によるDNA変異が導入されていた。
- 鋳型DNAとの間でのゲノム編集は、相同組換えの中でもnon-crossover homology-directed repairというメカニズムによるものであった。
添付資料
ゲノム編集図(PDF)はこちらからご覧下さい。 [283KB]
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日本遺伝子細胞治療学会(JSGCT)